やりたい事や食べたい物、見たい、触れたい、手に入れたい…
そういった自分の欲望が、全部お金があればクリアできる事だと気づくと、
心底ガッカリしてしまう。
疲れて腐って、ヤサグレた気持ちになってしまう。
仕事から帰って夕飯を済まし、無気力な心のままベッドに横になる。
疲れて腐って、ヤサグレた少年だった自分の過去の姿を思う。
あの時もこうしてベッドに横になり、ボケーッとしていた。
「世の中、しょせん金だよな」「楽して金持ちになりたいな」なんて思っていた。
それと同時に「金じゃ買えないモノもあるはずだ」という気もしていた。
でも、それが金のない自分の夢想に過ぎないのか、
それとも真理つく心に潜む確信なのかは、わからなかった。
そんな時に、ボクの目の前にロックの神様が現れた。
「少年よ、疲れて腐ってヤサグレた少年よ、
ヤル気はあるけどスル気のない少年よ、
もし君が『金じゃ買えないモノ』を欲しているのなら、
いますぐロックン・ローラーになりなさい。
金があればギターは買えるが、ギタリストにはなれない。
ギタリストってのは、金よりセンスや努力が必要なものだからね。
バーンと鳴らした君のギターに輝くものがあれば、
君は『金じゃ買えないモノ』を手にすることができるのだ」
「ギター?ロックン・ローラーってギタリストのこと?」
「ギタリストじゃなくてもいいさ。
歌を歌っても、踊りでもいいし、カメラでもいい。
リスナーの柵を越えてコッチに来いってこと、
プレイヤーになれってことだよ」
「プレイヤー?」
「そうさ。
君の声に、ダンスに、君が撮った写真に輝くものがれば、
それはこの世に唯一無二、まさに『金じゃ買えないモノ』なのさ。
リスナー越えな、プレイヤーになれよ。
ギタリストに、シンガーに、ダンサーになれよ。
カメラマンに、映画監督に、シナリオライターになれよ」
ちょっと横になるつもりだったが、すっかり寝込んでしまったようだ。
携帯を開いて時間を見る…23時。
もう寝るのか?とゴネながらも隣で熟睡してしまった妻を
起こさぬよう気をつけながらベッドを抜け出すと、
熱いシャワーを浴びた。
そうだ、ボクはプレイヤーでいなければならないのだ。
少年ならまだしも、疲れて腐ってヤサグレた中年なんてカッコ悪過ぎる。
ヤル気はあるけどスル気のない中年なんて、
まるでウンコにたかる気力もなく草葉の陰でジッとしてる蠅だ。
もう一度!いますぐ!ロックン・ローラーにならなければ!
鼻息も荒くパソコンを立ち上げると、キーボードを叩く。
中年よ、疲れて腐ってヤサグレた中年よ、
ヤル気はあるけどスル気のない中年よ、
もし君が『金じゃ買えないモノ』を欲しているのなら、
いますぐロックン・ローラーになりなさい。
CD聞いてんなよ、プレイヤーになれよ。
映画観てんなよ、監督になれよ。
雑誌めくってんなよ、ライターになれよ。
漫画家に、料理人に、職人に…
ブログ読んでんなよ、ブロガーになれよ。