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夜歩きを始めたのは中学生の頃だったか…深夜、両親が寝静まったのを見計らい「マラソンに行ってくる」と書き置きを残し家を出てそのまま何時間も散歩していることがよくあった。もともと妄想力の強い少年だったので、午前0時の暗い住宅街で白熱灯のオレンジに輝く灯が漏れる窓を見上げたり、雑然とした他人の家のガレージを眺めてるだけで楽しかった。大きな塀、荒れてスカスカな生垣、すりガラスのむこうにカラフルな傘が何本も見える玄関、電灯がつけっぱなしになってる階段…この家にはどんな家族が生活しているのか?何歳の人が何人暮しているのか?いくら考え続けても飽きることはなかった。

2階の角部屋、電気を消した窓から色んな色の光がチラチラ…大学生の息子がTVの深夜番組を見てるのかしら?1階庭側の部屋から漏れる灯は、仕事持ち帰ったお父さんの書斎かな?ガラス戸が細く開いているのは、タバコの煙を換気してるんだろう。お風呂場からシャワーの音、時間的に年頃の娘さん?それとも家事を終え一番最後に湯をいただく働き者のお母さんか?古い民家の茶の間が明るい…これは、毎晩11時のNHKニュースを見てから寝るのが日課の老夫婦ってとこか?人通りのない深夜とはいえ、立ち止まったり塀に近づいたりしてると怪し過ぎる(とくに風呂場の前で立ち止まってたりしたら…)のでテクテクと歩みは止めずに、ただキョロキョロしながら考察し続ける。

んで、38歳になった現在も相変わらず週に2度ばかり歩いている。i-podを聴きながら、深夜営業のスーパーに寄って明日の弁当のおかずを物色したりしつつ…という点は20年前とちがうが、歩きながら考えてることは変わらない。そういえば、夜歩きに同行してくれる友人や恋人っていなかったな…現在の妻もたまに誘ってるが必ず断わられてしまう。「健康のために」というタテマエが良くないのだろうか?唯一、自分と同じことしてる!と思ったのは、村崎百郎だけだったな…まあ、あの人はゴミ漁りが目的だったわけだけど。

つい2~3日前のことだが、いつものように深夜の住宅街を自分の知らない道へ知らない道へと入っていった先に、ちょっと気になる貸家があった。木造平家建ての昭和臭漂う、いわゆる長屋である。3軒同じ平家が並び両脇の2軒が空家になっている…現在のアパートに大きな不満があるわけではないが、こういったひなびた貸家に住む自分を妄想するのは結構楽しい。歩を弛めじっくり観察…玄関前の砂利地は駐車スペースだな、2台いや詰めれば3台は停められる。大きな倉庫は冬タイヤなどの保管に便利だが、大きすぎて陽当りを悪くしてるのでは…ていうか、隣家同志が近過ぎて日光自体まったく入らないかもな…ダメだこりゃ。にしても、広いな…3DKってとこか、家賃いくらだろ?繁華街から遠いから適正価格は4万~4.5万てとこかな?

住所はなんとなく覚えていたので、次の日ネットで調べてみたら物件情報がアッサリ見つかった。家賃5.5万!う~ん、隣の家から丸見えの陽当たり最悪で5万以上とは強気だなあ…もうひとつ気になった、変な造りのアパートも同じ不動産屋のサイトに載っていたので、こちらもチェック!おおっ?2万かよ!スゲ~安い!でも、妻や猫という家族と共に暮らすにはワンルームじゃ妄想が広がらないな…とりあえず、妻にこれこれこういう物件があって~と報告するが「あたし、まだここから引っ越す気ないからね」と予防線を張られてしまう。いや、ちがうんだけどさ~そうじゃなくて~ああ、この楽しさ何て伝えたらいいのかしら