めったに入らない荷物部屋の本棚には、実家を出て以来5回の引っ越しの大掃除の際、ゴミにならずに生き残った本たちが読まれることもなく積まれている。夏に何度か訪れた来客の宿泊スペースを作るため、前日片付けをしていてフト手に取った1冊がおもしろかったのでネタにしてみようと思った。

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「新感少女マンガ誌」というかなり恥ずかしいオリジナルジャンルを名乗っている雑誌『月刊 Betty』。月刊と銘打っているが「創廃刊号」とも書かれているので、いわゆるこれ1冊きりの企画誌だったのだろう。1982年発刊、1960年代から活動しているアニメーター集団『アニドウ』の発行となっている。タイトルからすると、いわゆるオタク向け美少女マンガの始祖的存在に思うかもしれないが、内容はアニメの原画や演出を本職としていたアニメーターが、かなり真面目に少女マンガを描いているのだ。しかし、少女マンガといってもパラパラとページをめくってみるとメジャーな雰囲気はなく、どちらかというとCOMなどのマイナー系マンガ誌に近い印象である。表紙は、ふくやまけいこ。

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巻頭カラーページは吉田秋生。「夢みる頃をすぎても」「夢の園」「十三夜荘奇談」という3作の後、「吉祥天女」「河よりも長くゆるやかに」の直前という、ボクが一番吉田秋生を好きだった時期の絵柄なのが嬉しい。わずか4Pだが、実に“らしい”仕事をしている。

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この雑誌の何がすごいって執筆陣の豪華さ!この頃の人気アニメーターや、これ系雑誌の常連が多く参加している。執筆者をざっと並べると、宮崎駿、高橋葉介、鈴木伸一、金田伊功、いしかわじゅん、吾妻ひでお、友永和秀、ふくやまけいこ etc...

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叙情詩に絵をつけたような、なかむらたかしのマンガ。この時期、なかむらはちょうど幻魔大戦~ウラシマンという時代なので、やはり絵柄の中に大友克洋の影響が感じられる。

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現代では「アニメオタク同士の恋愛」なんてテーマのマンガというと『となりの801ちゃん』のような自虐的+ユーモアなテイストのものになってしまうのかもしれないが、このマンガは超ストレートに少女マンガフォーマットでそれを描いている。

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こちらは、アニメーターとして長いキャリアを持つ友永和秀が、当時アニメ化され作画監督を務めた『姿三四郎』の続編という形で描いてる『その後の姿三四郎』。友永和秀といえば現在も第一線で活躍中の方だが、ボク的に印象に強く残ってるのは、『劇場版 銀河鉄道999』や『未来少年コナン』の繊細ながらもギリギリまで崩した人物の動きっぷり!顔をクシャクシャにして笑い泣き走る鉄郎やコナンの姿が記憶にしっかりと焼き付いている。このマンガにも、そんな表情芸とでもいえるようなユニークな絵柄が生きている。

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中程のカラーページは、東京ムービーがイタリア国営放送と合作し、原作に忠実な雰囲気を求めたイタリア側と揉めてその後長くお蔵入りすることになってしまったアニメ版『シャーロック・ホームズ』のイメージボード。宮崎駿以外に近藤喜文、友永和秀らも描いているのだが、どれも(意図的にだろうけど)宮崎のタッチにそっくりでビックリする。

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お次は、金田伊功と吉村牧子の合作。金田伊功といえば「金田パース」や「金田光り」なんて言葉を生み出したほどの、非常に個性的な作画で一世を風靡した伝説のアニメーターであり、この作品もいかにもな雰囲気のある、実に“らしい”マンガに仕上がっている。

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やなせじょうじ作『ロザンナ』。他の作品に比べ、コマ割りやページ構成のバランスが手慣れた感じで、ちゃんと“マンガしてる”のが目につくが、ストーリー自体はかなり唐突で「ん?え?」と思ってるうちに終わってしまった。

ボクの本棚に居座って25年…改めて読み直したのも何年ぶりだろう?これだけネタにしとけば、もう思い残すこともなく処分…とか言いながら、結局この日記を書き終えてパソコンの電源を落としたら、その足で本棚にしまい行ってしまうのだろうなあ。