丁寧で実直、そして少し不器用そうなおっちゃんのラーメンは、ちょっと個性的な作り方をしている。スープを鍋で煮ながら調味するのだ…なので、連れの客でもバラバラの注文をするとスープの種類だけ鍋が必要になり、必然的に調理に時間がかかる。コンロも少ないので一杯作り終えてから次の…みたくなってしまい、かなり時間差ができてしまったりする。麺の茹で具合も、何度も一本吸ってみて丁寧に自分の舌で確認しながら作っている。

以前、この店でラーメンをすすっていたら駐車場で乱暴な排気音がして、チンピラ風の男が入ってきた…開口一番おっちゃんに「おい、この店で一番早くできるの何だ?」、おっちゃんは「え?」と聞き直してから「どれでも一緒です」と真顔で一言。男は納得いかないように「一緒って事はねえだろ!急いでんだ、早く出せるやつくれよ」と怒鳴るが、おっちゃんは「同じだよ。それに今は混んでるから時間かかります」と答えた。男は何かボヤキながら店を後にした、おっちゃんは慌てて鍋の方に行きラーメンを作り続けた。ビビるわけでなく、気負うわけでもなく普通に受け答えしてたのが印象的だった。

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しょうゆラーメン(550円)、ドンブリたっぷりのスープは澄んでてアッサリすっきり…ひと口ふた口だと薄く感じるが、麺をすすってはゴクリ、メンマをかじってはゴクリとやってるとそのバランスの良さに思わず唸ってしまう。中細麺はやわめの茹で加減、ごちそう感のあるチャーシューに自家製コリコリのメンマ、ネギは切り立て、そして白く美しいモヤシ。すべてに手がかかってはいるが、アクの強さは無いスッキリ食べきれる由緒正しき昔ながらのラーメン。

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ギョウザ(250円)は、毎週定休日の日曜日におっちゃんがせっせと手包みしている自家製。何の変哲もない皮に包まれた具はジューシーで、思いのほか複雑な味。ボクは、ホントここのギョウザ大好き!もっとモチモチした皮に包まれた美味しいギョウザの店もあるけど、この値段でこのクオリティはなかなか無いよ!

国道挟んだ数キロ先に大学があるので、そこの学生さんらしき常連の姿もよく見る。以前、卒業シーズンに足元へボストンバックを置いた女性がひとりでラーメンすすってるのを見かけた事がある。ボクが店に入った時にはちょうど食べ終える頃だったのだがなかなか店を出ず、おっちゃんがひと仕事終えたのを見計らい「じゃ、わたし行きます」と名残惜しそうに声をかけていた…おっちゃんは前かけで手を拭きながら女性に近づく、女性は何か二言三言話しおっちゃんは「うん」「うん」と真顔で答えていた。たぶん常連だった子が卒業して最後のお別れを言いに来たのだろう…女性が店を出るとおっちゃんはいつも通りちょっと慌てたようにストーブへ行き、鍋の中のメンマを一生懸命かき混ぜていた。
 
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