毎年観に行ってる宮城のロックフェス『ARABAKI ROCK FEST』に今年も行って来た。本当は例年通りゴールデンウィーク前半に開催される予定でチケットも売り始めていたが、震災の影響で延期開催となった。中止も検討されたとの事だが、多くの開催希望の声に押され夏の日程が発表された時は、正直ちょっと覚悟していただけにググッと嬉しかった。

で、実際行ってみてスゴク感動したのは『ARABAKI ROCK FEST』が、いつもの『ARABAKI ROCK FEST』だったのだよ。「震災復興」や「がんばれ東北」みたいな、今や東北の町のそこかしこで見かける販売促進ツールとして利用されてる安っぽいコピーの類いがほとんど無く…もちろんゼロではなかったけど、極力そういった言葉を使わず…いつもと同じ、音楽好きな人達が日常を忘れて踊り歌い食って飲んで…という、ロックフェスとしてあるべき環境を主催者が、作ってくれていたのだ。これは、きっと我々が想像するより大変な努力を必要としたんじゃないかと思う…今やお金が動く場所には、どこにでも入ってくるからね「震災復興」「がんばれ東北」。

そんな風に“いつも通り”なARABAKIだったが、もちろん何もなかったわけではないので、“いつも通り”じゃない風景もたくさんあった。一番それを強く感じたのは、アーティストの動揺…大きな被害を受けた宮城で、観客の中にも被災者がいるであろうフェスのステージで、震災の事をどうMCするか?触れるのか触れないのか?どう振舞うべきか…基本的な姿勢は事前に決めているのだろうけど、実際ステージに立ってどういう態度でいるべきか、すごく探ってるように見えたし、悩んでいるように見えた。

でも最終的に、多くのアーティストはステージで腹を括る事が出来ていたように見えた。というのも、観客の音楽を欲するエネルギーが今回はホント物凄かった!音楽を、フェスを求める気持ちが半端無かった!3.11以前の「チケット買えばライブなんかいつでも行ける」みたいな気持ちは薄く、いま自分が『ARABAKI ROCK FEST』に参加できてる事へ対する喜びと感動が大きく、そんな想いが激しく体を揺さぶり、叫び踊らせる原動力になっていた。アーティスト達もまた、あまりに強く欲されている事に最初は戸惑い、しかしやがて“自分達の役割”に気づき、腹を決めて声を張り上げ、ギターをかき鳴らし観客の求めに応じ力の限りを出し尽くそうと熱くなっていた。仙台港で開催された第1回から参加しているが、今迄ボクが見た中で一番熱い『ARABAKI ROCK FEST』だったように感じた。

以下、見たもの一言雑感。長いのでたたみます。

 
8月27日

『サンボマスター』
いつも熱いサンボだが、さらに熱くなっていた。ボーカル山口の故郷である福島への想い、東北最大のフェスである『ARABAKI ROCK FEST』が開催された事に対する感謝の言葉…熱く歌い、熱く語り、山口のマユゲは八の字を通り越し「II」みたくなりそうだった。『猪苗代湖ズ』での活動もあり、被災者を含む観客への立ち居振舞い、自分達が何をすべきかわかってる、肝の座ったステージであった。



『くるり』
5人組になったくるりは、危う気なくポップスを聴かせる安定感のあるバンドになっていた。「京都から来ました、くるりです」というMCが良かった。ネットを介したコミュニケーションに馴れると、“何処の誰”だか名乗らぬ自分が“何処の誰”だかわからぬ人と語ったり笑ったりするのが普通になってたりするけど、稀に「あなたとはホントに友達になりたいので、名乗らせてくれ」と聞いてもいない本名や住所を伝えてくる人がいる。そして、そういう人とは長い付き合いになったりする。もしかしたら、我々が思ってる以上に“何処の誰”かをちゃんと伝えるのは、大切な事なのかも知れない。

『クラムボン』
ステージ終わった後「あ~聴きたかった曲いっぱいやってくれて良かった」と思い、改めて考えると1stアルバムからの曲がとても多かったことに気づいた。。アーティストとしては複雑な想いもあるだろうが、出し惜しみせず演じてくれた事に感謝。原田郁子の気い使いな人柄や、ミトのやんちゃな性格がビンビン伝わってくるような一球入魂なライブだった。

『Cocco』
ずっと涙を流しながら歌っていた。「しゃべると泣いちゃうから歌うね!」と声を振り絞って歌っていた。Coccoのように感受性の強すぎる人が、震災報道で散々悲惨さを印象づけられたであろう被災県にライブに来るなんて「どうなっちゃうんだろう?」と思っていたが、「こうなったか~」という感じ…観客に励まされ、さらに涙していた。でも、最後は大きく手を振り「また来るね」と約束しステージを降りる姿に、「来て良かったね」と誰目線だかわかんないけど、何だかホッとした気持ちになった。

『THE COLLECTORS』
やはりロック・ミュージシャンには、いくつになってても痩せてて欲しい!コレクターズを観て改めて思ってしまった。長いキャリアによる裏付けのあるタイトな演奏も、メンバーの佇まいも美しい!普段はただのオッサンなんだろうけど、ステージに立つとヒーローに変身しちゃう!って、本当に素敵なことだと思う。「この8月に出ました僕等のニューアルバムにも震災から着想を得た曲が3つ入ってまして…」と、若者バンドが発言したらバッシングされそうな発言も、50歳の加藤ひさしが無邪気に語ると全然OKな感じなのが不思議。

『SOUL FLOWER UNION』
この日の私的ベストアクト、物凄い盛り上がりだった。ロックであり民謡であり、各種ネイティヴダンスミュージックの要素をちりばめたソウルフラワーの音楽は、魂を開放しバカになって踊るのに驚くほど高機能であった。ボクはアーティストの表情が見れる距離で観るのが好きなので、どのライブでも結構ステージ前に陣取るのだが、ソウルフラワーの時ばかりはあまりに周りの人が自由に踊り過ぎるので、身の危険を感じ後方に逃げ出した。阪神大震災や東北大震災の被災地をはじめ国内外のドヤ街、障害者イベント、難民キャンプと心に傷がある人を一時“音楽の世界”へと連れ出す事に長けた中川敬の立ち居振舞いは素晴らしく、決して広くはないTSUGARUステージではもったいない気がした。阪神大震災被災地での活動から生まれた曲『満月の夕』も、余計なMCも説明もなく演奏するだけでメッセージが観客にビンビン伝わる。“賑やかし”としてステージ狭しと走り踊り歌いまくってた上村美保子の存在も良かった。中川から一歩下がりマンドリンをかき鳴らす高木克(ex.SHADY DOLLS)が見れたのもSHADYファンとしては嬉しかった。ライブ終了後も熱くなったファンはステージ前で踊り歌い続け、そのまま1人抜け2人抜けて終るのかと思いきや、キレイに拍手で締め最後に皆でハイタッチまでしてた。ボクはその輪の中にいたわけではないけど、何だか声を出して笑っちゃって少し涙が出た。



『ハナレグミ』
ハナレグミアレンジの『People Get Ready』良かった。「信ずる心があれば救われる」と詠われるこのバラードに永積タカシの暖かいハスキーボイスがマッチしていた。もちろんJeff Beckバージョンが好きだったが、これもアリ!全然アリ。タテタカコと時間かぶってたので、前半だけ聞いて会場を後にした。

『タテタカコ』
3年ぶりに観たタテタカコは、相変わらずフワフワした敬語のMC(一人称はワシ)とピアノを激しく叩き声を張り上げ歌う姿のコントラストが印象に残るライブだった。名曲『宝石』が聞けなかったのだけが残念…自分でも意外だったんだけど、どの曲のイントロを聞いても「宝石かな?」と一瞬考えてしまうのだ。ジュンも「すごく良かった…でも、宝石やんなかったね」と言っていた。



28日

『雅 -MIYAVI-』
ギターマガジンか何かのインタビュー記事で、バンド形態から離れソロでエレアコを叩いてるという話しに興味を持ちYouTubeで検索し、すっかりファンになった。で実際のライブは、かなり期待して見たにも関わらずそれを上回るカッコ良さだった。後、もっとキメキメな人かと思ってたけど、意外に変態…っていうか、音に自分からのめり込んで我を失うようなとこもあって、好印象。手元のスタンドと足元にサンプラーを置いてたんだけど、それをしゃがみこんで「キュイーンキュイーンキュキュキュキュキュキュキュキュ」とかツマミ弄りながら、オーディエンスに向かい人さし指クイクイ(カモンみたいなジェスチャー)は、無理あるだろ!みたいな、とてもキュートだった。初見のポチくんが「カッコ良かった~オレCD買う!」と言ってたのが嬉しかった。



『POLYSICS』
2年前のARABAKIで見た4人編成ライブは、正直ちょっと雑な印象が強くピンと来なかったが、3人になってグッと引き締まった印象。とても良かった。最近とても気に入ってる曲『Let's ダバダバ』でのDrヤノの「レッツ!」も野暮ったくて良かった。



『レキシ』
2日間通してボクにとって今年の『ARABAKI ROCK FEST』のベストアクト!ステージ上も客席も素晴らしい雰囲気だった!池ちゃんが戸惑う程の客の盛り上がりは、やはり今年の『ARABAKI ROCK FEST』の観客が求めていたものを全て満たしていたからだと思う。みんな悪ノリする池ちゃんのMCで爆笑したかったし、「武士!武士!武士!」とかってシュールなこと叫びたかったし、「縄文土器弥生土器どっちが好き?」って変な歌詞を素敵なメロディで歌いたかったんだよ…みんなハッピーな気持ちになりたかったじゃないかな?ファンキーなリズムで踊りたかったんだ。100'sのリズム隊に、Keyが風味堂の渡というバックに、ゲストが永積タカシMCボーズ、堂島考平という豪華さ。狭いHANAGASAステージから溢れ通路から溢れた柵の向こうの観客までもが「キャッツ!」と踊る、踊りたくなるような勢いがあった。笑ってた、みんな笑いながら踊ってた。





『マキシマム ザ ホルモン』
朝からホルモンのTシャツ着てる人ばかり目についたので、混むだろうなとは予想してた通りの大混雑。そして大盛りあがり。んが、個人的にはいまいちノリ切れず…中途半端な中年HR/HMファンの目から見ると、ホルモンファンのヘッドバンキングやメロイックサインははダンスの振り付けのひとつのように思えて、ちょっと引く…一番聞きたいギターの音もちょっとボヤけてて残念。でも良かった。客席前方で踊ってたポチくんは、超汗だくになってた…Tシャツしぼったら汗がジャーッと出てくるくらいに

『エレファントカシマシ』
毎年のように見てるエレカシのライブだが、メンバー構成がちょこちょこ替わるのが面白い。もちろんオリジナルメンバー4人は不動だが、今回はキーボードとギターのサポートが入っていた。エンターテイメントとして安定していて、それでいてロックンロールな音を探し続けているのだろうな…と、何かそんなトコが信じられる気がする。『ファイティングマン』を初めて聞いたのは10代の頃だったが今も色褪せず胸に響くのは、そんなロックンロール職人の弛まぬ切磋琢磨の為せる技ではないかと思う。

他にも、もういくつか見たバンドがあり感想も書いてはみたが、愛情ある批評にはならなかったので割愛した。ロックフェスに行くと不思議と腹が減らない…音楽で脳が満たされるのだろう。1日目はジュンに握ってもらったオニギリ、2日目はジュンが買ってきてくれた麻婆麺くらいしか食べなかった…きっと毎週末ロックフェスに行ってたら痩せる気がする。