『木地師(きじし)』という、轆轤(ろくろ)を使い木製のお椀や盆を作る職人さんがいらっしゃるわけです。平安時代の近江国(滋賀県)が発祥と言われており、明治初期までは木地師だけが「山の木を自由に扱ってよい」と朝廷や幕府から許可をもらっていたとされてます。

その木地師が作った子供用のオモチャを木地玩具と呼び、東北だと“こけし”、九州だと“きじ車”なんかが有名ですが、他にもコマやケンダマ、ダルマオトシなんかも「懐かしい玩具」として誰もが一度は目にした事があるのではないでしょうか?全部、木地玩具なのです。

で、こけし…今は大好きなのですが、以前はなんとなく怖くて苦手でした。高度成長期に生まれ新興住宅地で育った自分としては、明るい照明の下に置かれた明るいカラーリングの人形やヌイグルミに馴染みが深く、祖父母宅の薄暗い居間の片隅でアメ色に変色しているこけし達は神秘的すぎて理解できなかった。でも、数年前に『木地師』の存在に興味を持ち、そっからこけしにも惹かれていったわけです。その頃、羊毛フェルトにハマりはじめたジュンに「何かおもしろいモチーフない?」と聞かれ、こけし作りをすすめたのがきっかけで、今も色んなクラフトマーケットでジュンの羊毛フェルトこけしは人気があり、猫耳つけたり小首をかしげたりと進化し続けております。

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話しがそれました…木地師の総元締めは永きに渡り近江にあり、それなりに情報も行き来してたらしいのですが不思議とこけしを作ってたのは東北のみ…それについては諸説ありますが、東北の温泉地の繁栄と関係してるらしいですね。まだプラスチックや金属のオモチャが無かった時代、農閑期の娯楽として温泉地での湯治があり、その時に家で待つ孫や親類の子らの為にお土産として一般庶民が買い求めたとされてます。

薄暗い場所に佇み地味なイメージだったこけしも玩具の少ない時代の子供達にとっては、色鮮やかなキティちゃんやリカちゃん人形のような存在だったのだな…と想像すると、グッと身近に可愛らしく思えてくるから不思議です。そんな風にこけしにまつわるストーリーに興味を抱くようになって数年、偶然Facebookで山形在住のこけし工人・梅木直美さんの雛人形こけしを目にし、生まれたばかりの娘への最初のプレゼントとして手にしたのです。こけしに興味を持ってからネットオークションや、温泉地のひなびた土産物屋で現物を目にしても「欲しい!」と思えるこけしに出会えなかったのですが、父であり蔵王高湯系の伝統を汲む梅木修一工人に師事し、こけしと向き合う梅木直美工人のストーリーに惹かれたのかもしれません…自宅にお邪魔させていただき、雛こけしと共に数あるこけしの中から娘に寄り添ってくれそうな一体をお迎えしました。

で、その時に以前から興味あった『やみよ』と呼ばれるこけしについて梅木直美工人とお話しさせていただきました。そもそも赤子のおしゃぶりとして単純な造形のものだった『やみよ』が、その構造を受け継いだこけしに発展していって…いや、まずとにかく名前がミステリアスじゃないですか?これも諸説あるのですが「胴体にはめられた輪が抜けないのと、闇夜に表へ出られない事をかけてる」とか「闇夜のように赤子が夜泣きせずに熟睡してくれる事を願って」、または胴にはまった輪から宗教的な意味を考察した説、こけしの発祥について回る“間引き”との関連説を穿った話し等、具体的に文献として残ってるわけではないので何が正しいのかは(闇夜だけに)闇夜に隠れて見えてきません。うまい!

まあとにかく、そんな『やみよ』の事をお聞きしたら「いま自分のとこでは作ってないが、たまに見かけるので今度出会ったら連絡しましょうか?」と言っていただいた。「どうぞ、よろしくお願い致します」と頭を下げて数ヶ月…ついに梅木直美工人が連れて来てくれた!宮城の新山真由美工人による『やみよ』!

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弥治郎系らしさが見える筆描きの襟元、そして何と言ってもこの腰にかかったリングが『やみよ』ならでは!本体に継ぎ目は無く、リングが一本の木から削りだされた物である事がわかります。この帽子の先や縁の部分が『やみよ』本来のおしゃぶりとしての役割で活躍しそうな気配をビンビンに感じさせてくれる!ていうか、いま乳幼児に大人気の玩具『なめられ太郎』にどこか似て…似てると思いませんか?

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ちなみに『なめられ太郎』の襟元にあるのは「パーカーのひも」だそうです。赤子がペロペロガジガジしたい物として特化してるのです!そんなわけで長々と書いてしまいましたが、少しでもこけしの奥深き世界の一端を垣間見ていただく事が出来ましたら幸いです。ちなみに、梅木直美工人の作品がいま山形県村山総合支庁のロビーに展示されているそうですので、ご興味持たれた方はぜひ足をお運びください。ジュンの『羊毛フェルトこけし』は、今年も蔵王龍岩祭の期間(8/22〜24)ロッジ伊澤さんにて販売させていただいておりますので、そちらもどうぞよろしくお願い致します。